第四の壁

『第四の壁』。

 シネマヴェリテ、キアロスクーロ等に並び言葉を覚えただけで賢くなった気になれる魔法の言葉の一つ。19世紀に演劇用語として生まれ、更にそこから派生する『第四の壁を壊す』という素敵な言葉もある。

 

 第四の壁とは観客が舞台と自分との間に無意識的に作るフィルターのようなものであり、舞台上で行われる非現実的世界(フィクション)を現実側にいる観客(ノンフィクション)に受け入れられるようにする観客自らが能動的に作り出すものである。劇場内で日本人の役者が金髪のカツラを被り、日本語で「おお、ロミオ!あなたはどうしてロミオなの?」という台詞を違和感なく受け入れる事が出来るのもこのフィルターのおかげである。

 この壁は映画にも存在するもので有り、逆にこの壁を利用して観客に自分は今作り物を見せられているのだと自覚させる事もできる。これが先に言った『第四の壁を壊す』という事である。一番有名なやり方としては物語のキャラクターがレンズに向かい観客に直接語りかける方法があり、ミヒャエル・ハネケの作品『Funny Games』で効果的に使用されてる。この作品内でハネケは壁を作ったり壊したりする事で観客を翻弄し、観客が考えて物語を見るという自由を奪い、見事に観客の感情をコントロールしている。

 他にも架空の物語の中で現実世界にいる人物の名前を出して観客の現実世界とリンクさせる等のやり方もあり、これを意識的にコントロールする映画は多く存在すると思う。デジタル化が映画制作に大きく関わるようになり、デジタル技術化に注目が集まりがちだが、そんな時代だからこそこのような手法を取り入れ、そこから新しい表現方法を作り出す事も大切である。

 

  個人的にはこの壁アニメーションで最も色濃く(無意識下の壁なので色濃くとは変な表現だが)出ているのかなとも思う。プロの声優の独特な発声、何より描いて作り出す映像。全てが壁を作り出すに好条件であるように見える。故にアニメーションって気軽に観て入り込み安いのかなと思えてしまう。実際アニメーションの映像の中で現実世界の絵をベースにした背景を見かけると瞬間的に壁が壊される事がある。 

 

 映画制作に関わる仕事をするようになり多くの映画を見れば見るほどこの壁が曖昧かつ、偏見に満ちたものになり、純粋に作品を楽しむ事が少なくなったようにも感じられる。面白い作品を作って行きたいという気持ちは当然あるが、同時にいつまでも子供の頃に映画を観ていたあの気持ちも心に留めておきたい。